慈眼寺 副住職ブログ

ビルド総括

ビルドって、なんやったんや。

ビルドが終わりました。放映開始時は「コレは名作の予感!」と期待しましたが、途中から尻すぼみ。次作「ジオウ」に制約が多く、その分放置されて好き勝手やれた、と制作側が言っていたとか聞きましたが、実際ニチアサヒーローものとしては異常なほど人がバンバン死ぬ内容。鎧武もそうだったんだけど、「内容のハードさ」=「人が死ぬ」っていうのは、ちょっと安易ですね。実際個人的には鎧武とビルドはちょっと印象が似ています。ただ、色々深読みすると、制作側は少なくとも、かなり凝った世界観でこの物語を作り上げようとしていた形跡だけはあるので、ちょっとそのへんをサクッと。

なぜ今かというと、世間はジオウ一色なので、今こそビルドを総括しないと、正直かわいそうというか、僕が面倒くさくなってやらないと思うからです。

では、副住職の「ビルドってなんやったんや?」のはじまり~。

 

 

仮面ライダービルドの世界観を一言で説明すると「グノーシス的解釈によるバベルの塔と特異点定理を2つの大きな柱にした物語」に尽きると思います。

 

Gunostic Babel

有名なバベルの塔の話は、かつて一つの言語を持っていた人類がおごり高ぶって天に届く塔を建てようとし、怒った神が塔を破壊し、言葉をバラバラにした、という有名なアレ。ただ、パンドラタワーは人類が科学で作り上げたものではなく、むしろ「邪神」みたいなエボルトが作り上げたもの。そのへんの解釈を可能にするのがグノーシス主義です。

いわゆる「反宇宙的二元論」では、この世界が悲惨さに満ちているのは、この世界が「悪の宇宙」であるからだという前提に立ちます。つまり善-悪、コスモスーカオスの価値がすべて逆転する。神だとされたものは偽る神=ヤルダバオトであり、悪だと思われた知恵の蛇こそが神である、という風に。「悪の科学者葛城巧」が「ラブ&ピースの正義のヒーロー」に逆転するのもそのあたりの解釈を下敷きにしているからだと思われます。

そもそも「バベルの塔」は、グノーシス抜きにしても「実現不可能なこと」の象徴です。決して完成することのない「計画」。建設しては途中で壊される。したがって「バベルの塔」の本来の姿とは建設の「途中」にこそ存在するわけです。

積み上げて積み上げて、その頂点で崩壊する。崩壊はゴールであり、はじまり。構築と解体。つまりそれが「ビルドとクローズ」なわけです。「世界の終わりと始まり」が同じであるような円環的世界観がそこにはある。

ただ、ビルドは「その先」のモチーフもまた内包しています。

 

singularity theorem

Penrose-Hawkingの特異点定理というものがあります。あるそうです(笑)。Hawkingというのは、今年亡くなられたあのホーキングさんですね。この定理ビルドの中でも、何度も数式の形で出ているようですが、高校で微分積分はもちろん階差数列も苦手だった私にはもちろん何にもわかりません。基本的にはブラックホールなんかでは物理法則が通用しなくなる点=特異点がよく出てくる、という話、みたいなんです。

エボルトはブラックホールの力を使って惑星を滅ぼす破壊原理の象徴のような存在なので、そこで物理法則の通用しない「特異点」というアイディアも必然的に出てきます。それが戦兎・万丈なんですね。実際最終回でも、二人だけが「改変前の世界の記憶を持つ」存在として、つまり特異点として存在しています。それ以外は全く普通に生きているわけですから。このへんは超時空世紀オーガスっぽいなとも思ってるんですが。

しかし、このPenrose-Hawkingの特異点定理の本当に困るところは、ブラックホールなんていう特別な例じゃなくても、「普通の世界で特異点は必ず出てくる」というものなんですね。つまり「この世界の秩序は、本当は破綻を内包している」、ということ。

ここで先ほどのグノーシス主義が再び頭をもたげてくるわけですね。正しいと思っていたものは偽り。神だと思ったものは悪魔。その逆もまた然り。この世界が「悪の宇宙」である、ということです。

 

再びグノーシス

「この世界が悲惨すぎる。だから、こんな世界は間違っている。」

これが戦兎の世界改変の動機です。
ですから、子供向け変身ヒーローとは思えないほど、「戦争」が毎週日曜朝に行われ、人がバンバン死にます。主要キャラも死にます。モブもバンバン吸い上げられて「ゴミのよう」(byムスカ)に死にます。

「やりすぎだろう」

と思って見ていましたが、制作側としては「悲惨でなければならない」理由があったわけですね。

「こんな悲惨な世界が、本当なわけがない。」

と思わせる世界でなければならなかった。

エボルトというキャラは正直言うと最後までよく分からなかった。「何がしたいねん」としか言いようがない。「破壊神」としてはちまちました計画を立てるし、わりと他人頼みだし。しかしまぁそこもグノーシス的解釈をするとちょっと腑に落ちるところもある。

名前からして「エボルト」=「evolution」=「進化」であり、闘争原理によって世界を争わせる悪魔であり、知恵の神でもある。

こんな奴が神であっていいはずがない、という思いが、特異点となって神を悪魔に変え、無効化して消してしまう。

ビルドというのは、そんな物語だったのかなと思います。

 

Be the One

そして忘れてはならないのが、この作品の主題歌「Be the One」。小室さんの私生活のアレでケチがついてしまいましたが、これはライダー主題歌の中でもかなりの名作の部類。小室さんの楽曲の中でも久々の名作だと思います。今回のゴシップのせいでいまいちまともな評価がされないのは非常に残念ですが、まぁそのへんもスクラップ&ビルドなのかなと思ったり、思わなかったり、ラジバンダリ。

しかし、この「一つになろう」というテーマ、すごくビルド全体に利いてるんですよね。

「バベルの塔」では「一つである」ことは「悪」とされ、神の怒りをかうわけですが、グノーシス的観点に立てば、「一つであることを悪だと怒る神こそが悪である」という逆転が起こり得ます。

作中でもパンドラボックスの光を浴びた人々は好戦的になり、戦争に明け暮れ、「世界を統一」しようとします。これは確かに神の怒りをかうような愚かな行為であると言えます。

しかしビルド=戦兎は「Love&Peaceのために戦う」ヒーローです。対立する人間と理解し合い「一つになる」ことを愚直に信じて戦い続けます。「戦いを終わらせるために戦う」という行為の矛盾は、作中でも何度も指摘されるわけですが、「天才物理学者」のはずの戦兎は、そこはとことんバカになって戦い続け、最終的には物理法則の及ばない特異点になってしまいます。

「一つになる」ことの負の側面と正の側面の両面を描き、正しい方向に愚直に進もうとするヒーロー。

「物理法則を越えた物理学者」であり、「天才バカボン」、それこそがグノーシスヒーロー仮面ライダービルドの真の姿というわけです。

そう考えると、ラビット&タンクなどの「相反する要素がベストマッチ」という設定も、非常にグノーシス的だと言えます。個人的には、美空が子供のときに頭に描いた「好きなものとそれを壊すもの」がベストマッチのもとになったという設定は、龍騎の神崎優衣が「自分を守ってくれるもの」として描いたモンスターがミラーモンスターになった、という設定と重なって、なんだか切ないわけですが。

 

総括

ただねぇ。

このパラレルワールドによる世界の改変、っていうネタが、陳腐すぎて、その肉付けにつかった特異点理論とかが、どんなに練られていても、「便利な並行世界に移っただけ」っていう印象になります。夢オチと変わらないですよね。特異点になった二人にしても「ご都合主義」にしか見えない。これはSPECの完結編でも同じことを感じたわけですが。(ちなみにSPECの二人と仮面ライダー鎧武の二人は、実は全く同じ運命をたどったと感じました。パクったとかそういうんじゃなく。)

せっかく練りに練った伏線だけど、子供用には小難しすぎる。だから表面上は「愛と平和のヒーロー」で、裏には「グノーシス的二元論」のテーマを常に沿わせているんですが、結果、子供にも大人にも中二病にも面白くないというか。

結局裏設定はあくまで裏設定。現実目の前で見えてるのは、世界A→世界Bへの移行、融合。言うてみれば「ええとこどり」やんけ!ということになっちゃうんですよね。

これだったらまだブラックRXの「地球に移住するはずだった怪魔界50億の民が全員消滅」というラストの方が、衝撃的で印象に残るんですよね。わけわからん数式をちりばめ、さんざん伏線張りつつ、「みんなもとどおりで、仲良く暮らしましたとさ」だと、非常に残念な印象。

あと、ただでさえキャラが弱く、途中から泣いてばっかりで何もしてない美空が、最後までどうでもいい存在で、「ビルドのヒロインって、結局万丈だよな?」としか思えない。この女性の活躍が当たり前の世の中で、こんな存在の耐えられない軽さを受け入れているヒロインはどうなのだろう。「#Me Too」って、オーズの怪力娘とか、ゴーストの科学者娘とか、ウィザードに魔力を注入されてるお人形さんとかが声をあげてほしいですね。あ、でもLGBTの世の中だと思えば、ヒロインが男でもいいか。万丈もこないだまでは暴れたり泣いたり「千翼逃げルルオ!」って叫ぶだけで、最後学校に戻るだけの人だったしな!

よかった演出について少し。かずみんのネタキャラ化はちょっと食傷気味でしたが、ヒゲのげんとくんのネタキャラ化は非常に、非常によかった。「高嶋兄弟のあとを継ぐのは君だ!」と言いたくなるような活躍ぶり。案外ビルドで芸能界に生き残るのは、げんとくんだけかもしれないッス。そういう意味では真の特異点は彼かもしれない。

そんなわけで、結局、「制作者が、好きなようにものを作ると、案外つまんないもんになる」という見本みたいな、ビルドでした。

とはいえ、制約だらけでもディケイドみたいになってワケわかんなくって、おもちゃばっかり買わされます。ディケイドの時間版とでもいうべき、ジオウがはじまってしまったので、期待しないで見ています。しかしもうタイムパラドクスネタもウンザリだなぁ。二号ライダーもナイトの人そっくりだし。

ちなみに、日本で一番複雑な気分でジオウを見ているのはオレだ!という確固たる自信があります。