慈眼寺 副住職ブログ

反「イクメン」

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育児をする男性を最近「イクメン」と言います。娘と街を歩いたりなどすると、「お。イクメンだね。」なんて言われたりします。

実は、こう呼ばれるのがものすごく嫌です。なぜ嫌なのかよくわからないですけど、嫌です。流行に乗って育児しているようで、いやです。なんなんでしょう。顔にツバを吐きかけられたような屈辱を感じます。そんなことされたことないんですが。

私は別に育児なんて全然苦にならない!楽しい!なんて思っていません。苦です。めちゃくちゃ苦です。あんなにしんどいことはないです。
今日も奥さんにどうしても外せない用事があり、午前中ずっとまるまる二人で過ごしました。別に二人で時間潰すだけならたいしたことないんです。
今日以外でも、よく娘とふたりで車に乗ってホームセンター行ったり、本屋行ったり、自転車屋さん行ったり、ペットショップ行ったり、ああ、あと部活に連れて行ってそのへん走らせたりして、3時間でも4時間でも5時間でも、面倒は見られます。ですがお寺で一緒にいるのはつらい。
まず、留守番・電話番もしながらですのでそんなに遠くへいけない。来客もあるので対応しなければならない。子供は僕に似て飽きっぽいので、すぐに家を出たがる。広いからいいねなんて言われますが、お寺ほど触ったらダメなところが多いところも珍しいです。障子・襖・仏具・花・香炉・仏像・・・。もうどこもダメです。自分はダメダメなど一切言われずのびのび育ったのに娘にはダメダメばかり。自己嫌悪にもなります。

お坊さんという職業は不思議な職業です。家に帰るのが異常に早い。大きいところは別として、だいたいの普通のお寺は昼には終わります。家に帰ると何があるというわけではないのですが、掃除や電話、来客、突然の仕事など、「なんとなく何があるかわからないことに、漠然と備える」という日々です。うちの場合は厄除けのご祈祷に来られる方や、その予約の対応です。他に詐欺師さんもいらっしゃいます。お寺目当てに、有名消化器メーカーを装う消化器詐欺、すごく安くなると嘘をつき法外な保守費用を請求する電話機詐欺、福祉と見せかけて本を送りつけ、代金を要求する詐欺など、おじいさん住職目当ての詐欺がよくやってきます。もう「NTTの・・・」とか「消化器のヤ○トです!」なんて言ってきたら99.89%詐欺師または法律にギリギリ触れない形で人を騙してお金を稼ぐ人たちだと思っています。

そんな人たちの訪問のせいで、せっかく寝かせた娘が起きてしまったりすると目も当てられません。オムツを替えているときに限って人がやってきたりします。多くのお母さんがたいていそうだと思うのですが、本当に、なんでこのタイミングで!という形での来客があまりに多く、もうインターフォンなんて切っちゃおうと思ってしまいます。私の場合できませんけれど。

育児はとにかく忍耐、忍耐です。嫁や妹を見ていると本当に根気強いなと感心します。男はダメですね。よく、仕事しながら子育てしてる人を大変だねと言ったりしますが、アレ、逆だと思いますね。専業主婦の方が絶対大変です。家事や子育ての何が大変かって、それは「終わらない」ことです。仕事は頑張れば終わる。時間が来れば終わる。休みには絶対に呼ばれない。「この日、この時間はフリー」という完全な「オフ」がある。これは自称「仕事人間」のお父さんに言ってるわけですが、家事・子育てはそうではないんです。仕事は多かれ少なかれ、やりたいことを選んでいるはずです。ですから仕事は仕事であって同時に「息抜き」の側面もあるのだと思います。自分のペースでできますし。通勤電車に乗った瞬間、ただの一個人としての自由を満喫している、とも言えます。そして何より、「自分は社会のために貢献している。お金を稼いでいる。」という自信も持てます。一日中家にいて何も生産せずに子供に振り回されていると、「ああ、もう夜!自分は今日何をしてたんだ!」と思います。悲しくなります。お昼ご飯作ったのに、もう夜ご飯!もあるあるですよね。俺は飯を作って食うためだけに生きているのか!と思うときは泣けてきます。ごくごくたまにするだけでもソレですから、奥さんはそれが毎日なので、まことに申し訳ない。メニュー考えるのも大変ですしね。

一般的に仕事を持つ母親の方が専業主婦より子育ての満足度は高いそうです。「子供のため」と思って自分の好きな仕事をし、「両立大変ね」と言ってもらえて、保育所では子供の精一杯の笑顔で迎えられて、家に帰って新鮮な気持ちで子供と接することができる。それは間違いなく大変なんですが、ある意味でとても充実した形なのだと思います。「誰のおかげで飯食ってんだ!」とか言われませんしね。職場でも働きながら子育てをしているお母さんがいますが、「病気の時は大変だけれど、仕事をしていないで、子育てだけしてたら、ノイローゼになったと思う」と言っている人もいます。「大変ね」なんてイメージで言うべきではないのかもしれませんね。私もお坊さんやって教師をやってコーチ(笑)をやって、「めちゃくちゃ忙しいね!」と同情されたりしますが、大変だと思ったことはないです。好きで選んだことばかりですから。

で、子育てです。たぶん、どちらかというと、頑張っている方だとは思います。家にいる時間が長いので、自分だけ寝ているわけにはいきませんから。あと、無駄に体丈夫で体力も無駄にありますから。オムツも替えます。ご飯も食べさせます。散歩もします。ドライブで寝かせます。お風呂は毎日入れてます。簡単な家事もします。ゴミ出しが恥ずかしいなんて思ったことないです。でも、本当に子供にかかりきりで子供の言うなりになっていると、本当に「忍耐」になってしまうので、75%私優先で活動しています。「トイザらスには連れて行くけど、おもちゃは買わずに眺めるだけ、帰りに本屋で自転車雑誌購入」というコースの子守。「自転車屋さんに連れて行って、ひたすらパーツを物色し、帰り道に娘が寝る」というコースの子守。「部活に連れて行って、部員に相手させておいて、自分はプレー」という子守。ソレ、子守要素ほぼゼロやん!という形での子守しか私にはできません。なので「子供といるのが何よりの幸せ。成長を見守れるのが楽しい」なんて普段はほとんど思いません。母親が昔幼稚園の先生だったのですが、私の子育ても完全に「どこにでも連れて行くが、場所は自分の行きたいところ」「勝手に遊ばせるのが育児。こっちからは気が向いたら構う」というスタイルだったので、完全にアレの踏襲です。

そういうわけで、私はイクメンとは名ばかりの、不真面目で後ろ向きな育児と、前向きなエンジョイマイライフをなんとか部分的に両立できないかと模索している新米親父であって、「理解のある夫」とか「優しいイクメン」とか言われたら、ものすごく嫌です。馬鹿にされてるのかと思ってしまう貪・瞋・痴の三毒にまみれた汚い人間です。違うからです。こういう家事を一切振られないようになりたいですが、それって実は奥さんに「諦められてるだけ」だということは、数え切れない人生の先輩のママさん、おばさん、おババさんから聞いています。もちろんある程度は諦めていただかないと、こっちのエンジョイがどんどん少なくなります。「自転車・バドミントン」の2大エンジョイだけをなるべく守らなければならない。そのために酒もタバコも女もギャンブルも一切やらないまるでお坊さんのような生活を送っています。傍目で見たら「草食系イクメン」というもう流行りの要素満載です。ないのは「壁ドン」くらいですね。ですが、ここまで読んでいただいてわかるように、「人よりヒマで、自分優先で子供を連れ回して子守した気になって、ドヤ顔で自転車で出かける痛いおっさん」が本体です。自転車だって速くもなんともないのです。あるヒルクライム大会で「35歳~40歳の部120人中90位」ですよ!(泣)

そんなわけで、もちろんいまの「じいじ」世代のパパよりはマシですよ。あの人たちはひどい(笑)ですが、私は断じて「イクメン」ではないのです。そう呼ぶくらいなら、私に自転車のパーツを恵んでください。
とりあえず今は軽いハンドル募集中。