慈眼寺 副住職ブログ

すずめの戸締りレビュー

ずいぶん長く投稿をしていませんでした。

色々あったもので、長く、何かを出力することの怖さみたいなものに、すくんでいたような、面倒なだけだったような。

そんな自分が久しぶりに、何かを語りたい、と心が動かされる経験がありました。

先日、家族で「すずめの戸締り」を観てきました。

 

 

「君の名は」をこよなく愛する私ですが、「天気の子」はイマイチどころか全く刺さらず、新海誠はもういいかな、と思っていた矢先、娘が「すずめの戸締りを観たい」というので、観にいく口実ができまして、親子三人で観てきました。

 

「君の名は」があざといまでにミュージックビデオに徹した作品としてとんでもない完成度を誇っていて、その割り切りぶりが物凄く気持ちよくて、これは教会で賛美歌を聴くように、お寺で読経を唱えるように、とことん色と音楽にのみ込まれればいい映画だと。最初から最後まで気持ちよくなればいいんだと。小難しくなくてすごくよかったですね。声優陣の力業もすごかった。

「天気の子」はテーマにしていることを伝えるのがうまくいかなかったな、という印象が私にはありました。「全世界より君が大事」という、傲慢なようで、幼稚なようで、それでいて普遍的で、切実なテーマが、何か未消化のまま、「社会と折り合いをつけていくこと」と絡み合わされて提示されたような、そんな気がしました。一言でいえば歯切れが悪い。歯切れが悪いことを扱っているんだから当たり前なんですが。

今回の「すずめの戸締り」は歯切れよかったですね~。MVっぽさはだいぶ背景に下がり、「君の名は」とも「天気の子」とも違うと同時に、どちらでもあるような、一つ次元が上がった気がしました。アウフヘーベンですね。

ロードムービーなんですね。すごくデキのいいロードムービー。

ジブリ的でもあり、ハリウッド的でもある。

部分部分は10分に1回くらい見せ場がバンバンやってきて矢継ぎ早にハラハラさせる。それらを繋げていくとそこに「遍歴」が見えてくる。ただそれは成長譚ではないんです。意味もない。いや、あると言えばあるんですが、少なくとも登場人物の中にそれはない。登場人物の、特にヒロインの中にあるのは円環のみ。円環のなかで自分自身を知る旅がそこにあるだけ。だがそれが不思議とものすごく心に迫るものがあるんですよね。

ロードムービーといえば、エンディングよかったですね。帰り道の見せ方なんてすごくジブリ的でした。アレすごいよかったですね。ナウシカとかトトロのやり口です。パクリとか言ってるんじゃなくて、「好みです」ってことなんです。丁寧に作ってるなぁと。

で、この作品のテーマ自体は「一目惚れ」と「あなたのいない世界が怖い」。これだけ。これがよかったですね。

幼い幼い。幼稚な世界観。

私のような中年では笑わざるをえない内容なのです。実際おじいちゃん大笑いしてる。

でも、バカにはできないんです。この、未熟だからこその情熱の突っ走りぶり。純粋であることの暴力的な美しさ。そこが実に眩しい。

「それ」をもう失ってしまった、もしくは「そんなものなんて存在しない」と気づいたような、そんな「大人」だからこそ、眩しい。「失ったからこそ眩しい」という感覚。

そして表裏一体の形で「人の営みのはかなさ」が根底にずっと低音で響いている。

「失ってしまった」人間だからわかる「はかなさ」。

恋のはかなさといのちのはかなさ。

「やがて必ず失われるからこそ、燃えさかる間はまばゆいばかりに美しい」

人も街も恋も。

野暮にはなりますが、やはり、神戸と東日本の二つの地震を、直接的ではないにせよ、リアルタイムで見てきた人間には、本当に、良くも悪くも「耐えられない」シーンがあります。あの、何キロにもわたって橋脚が倒れた阪神高速の、冗談みたいな悪夢の光景を生で見た日。誰かの亡骸が埋まっているかもしれない屋根の上を歩き、見上げた空には電柱が一本もなく、たぶん、私がこれから先見る日本のどの空より広い空を見たのでしょう。それはほんとうに、ただただ広かった。バカみたいに広かった。押しつぶされそうな、広い空。

東日本のときは、遠い関西にいましたが、テレビで流れる絶望的な光景に日々、涙を流しました。ほんとうに、暗かった。日本が暗かった。あの日、何万もの「いってきます」が発せられ、「おかえりなさい」に会えないまま、消えていった。それを暗示するシーンは、直接経験のない自分からしてもきついものでした。

あの震災を扱った作品はすでにいくつかありますが、なんだろう、今だからこそ、できた映画という気がします。そういう意味では2022年の今だからこそ、見られる映画という気もします。旬に観られた気がします。

それと幼いすずめのお母さんを求める声は本当にきつかったですね。あそこは本当に。アレはみんな泣いちゃうんじゃないですかね。きつかったですね。あざとい、とみる向きもあるかもしれませんが、私はいいと思いますね。王様ランキングも大好きだしね。

何度も口に出しているし、何度かここでも書いたと思うんですが、私は誰か一人の経験をとことん掘り下げていった結果、誰にも共感されるような普遍的な真理が浮かび上がってくる、そういうタイプの思考方法が大好きなんですね。最初から普遍を求めるのではなく、特殊をとことん突き詰める。自分だけの問題を考えていった結果、誰にとっても意味のある答えが得られる、気がする。そんなプロセスがとにかく好きなので、「全世界より君が大事」より、「あなたのいない世界が怖い」が好みですね。「私のいない世界」までいけば、もうそれは哲学になってしまうんですが。

娘も気に入ったみたいで、ここ最近、友人に借りた「名探偵ホームズ」のDVDの話しかしてかったんですが、いまは「すずめ」の話ばっかりして絵を描いてますね。声優さんもみんなよかったですね。俳優を声優さんにつかうの、あんまり好きじゃない方ですが、新海さんは毎回チョイスがいい。でも今回は特によかったかもしれない。ヒロインの原さんがよかったのはもちろんですが、伊藤沙莉さんの上手さはもう完全にベテラン女優ですね。戸田恵子みたいになっていくんじゃないかな。末恐ろしい。

なんかとりとめのない語りになってしまいましたが、語りたくなってしまうような、いい映画でした。もう一回、一人で見に行きたいかな。レイトショーでおっさんオタクばっかりに囲まれて観てみたいですね!