慈眼寺 副住職ブログ

禁断の”あの”話題

昨日のブログを書きながら、「これ、自転車だけじゃなく、お坊さんにも当てはまるんだよな~」って思ってたんですよ。ある程度ですけど。
最近ホットな”あの”話題です。

そうアマゾンの「お坊さん便」。

私のこの件に関してのスタンスは明確で、

「需要があるなら、なんら問題なし。一つの形として全然アリ。」

というものです。文句言ってる人ってすごく大きいお寺の住職さんとか、各宗派の上層部だけだと思います。
話せば長くなるのですが、大前提として、日本の企業の99%が中小企業であるのと同様、お寺の規模にも格差がものすごくあります。少子化・過疎化などの原因で檀家数が減って、生活できないお寺がたくさんあります。いま、お手の住職になること自体は簡単ですが、生活していくのは簡単ではありません。一軒では生きていけないので複数のお寺を兼務する事例はこれからもどんどん増えるでしょう。そうした生活が苦しいお寺にとっては、新しく檀家さまと知り合えるまたとない機会です。

逆に、信者さま・・・にまだなってはいないわけですが、お坊さんを探している人にとっては、ツテもなく、幾らかかるか分からないお寺や、遠くの実家の檀家寺より、近くでやる気のあるお坊さんが来てくれた方が、よほどいいというのもうなずけます。

需要と供給、といっては何なのですが、それがガッチリ合ってますので、何に文句があるのか。文句があるのは既得権益がものすごい大きなお寺や、本山を通さない闇営業を快く思わない上層部だけでしょう。私はどちらでもないので反対する理由がありません。教師をしていなかったら登録していたかもしれません。そもそも、私のような副業しながらのお坊さんと、形はちょっと現代風でも本業一本で頑張っている人、どちらが立派かといえば、後者なのじゃないかと思うほどです。

ただ、一つお坊さん派遣を注文する前に2点ほど注意点があります。

一つ目。お坊さん派遣は安くないんじゃないの?ということ。

法事に関してアマゾンのお坊さん便が35000円。イオンは45000円。
アマゾンは2週間前までに注文しなければならず、従って通常のお葬式には使えません。
ですのでアマゾンのお坊さん便に関して「近所の坊主は何十万も葬式で要求したが、アマゾンでは35000円」などという批判は全く的外れだということです。
(そしてイオンのお葬式の価格は、我々の平均的なお布施の額とほとんどずれを感じません。)

お葬式ではなく法事の話なのです。
すると、話が随分違ってきます。法事のお布施でしたら、私、幾らとか金額を大っぴらにするのは憚られますが、少なくとも35000円以上頂いたことはほとんどないと断言できます。「”お気持ち”は分かりにくい」というご意見は共感できますが、これより少ないお布施で十分満足してお経をあげさせて頂いています。

「でも、寄付とか維持費とか月参りのお布施とか、いろいろ普段にとるんじゃないの?」

ちょっとお詳しい方ならそういう突っ込みも入るかと思います。ですが、それはお墓を菩提寺に求められた方の場合です。お墓も作らず、檀信徒にもならず、法事だけしてほしいというのがアマゾンのお坊さん便。同じように当寺にお墓もなく、お盆にお参りだけしてほしい、法事だけしてほしい、という方はたくさんおられます。そのご希望に従い、そのようにしております。ですが、お布施を35000円も頂くことは滅多にありません。あくまで信者様のお気持ち次第です。こちらから最低幾らとも言いません。

 

二つ目は派遣されるお坊さんの素性が全く分からない、という点。

もちろん、得体のしれない、お坊さんとは名ばかりの無資格の方がやっていると言いたいわけではありません。私の知人も登録しています。立派なお坊さんです。派遣会社もきちんとチェックしています。無資格というのはほぼないでしょう。ただし、どこかのお寺の住職さんではない方も当然含まれます。どこかのお寺の職員として雇われている方や、中にはマンションを宗教団体登録して「お寺」ということにしてらっしゃる方もおられます。もちろん、お寺の有無や住職であるか否かがお坊さんの価値を決めるわけではありません。

ただ、やはり代々お付き合いをしているというメリットはやはりあり、生前の様子を偲べる戒名にしようとか、今度の法事はおばあさんの年忌と一緒にしてしまいましょう(だからお金の話でいえば、半分で済むわけですよね)とか、お葬式には何があっても必ず駆け付けるとか(そのための”住職”ですので)、そういう長い付き合いならではの相談とか、安心感とか、そういう長い付き合いなりのメリットというのはやはりあると思うんです。で、そういうお付き合いがそもそもないので、だからそのきっかけとしてアマゾンを窓口にしてスタートしたい、というのなら、アマゾン大歓迎。アマゾン最高!ビバアマゾン!と思うわけです。

ちなみに、「最初だけアマゾンで紹介してもらって、以降は直接そのときのお坊さんと連絡をとって、もっと安い値段でやってもらう」という意味での「スタート」にすることは、基本的にはできません。派遣会社はそんなに甘くない。最初だけ利用してあとは直接営業というのでは仕事が成り立ちません。そういう「闇営業」をしたことが発覚しますと、今後一切「仕事」を回さなくなりますので、登録しているお坊さんもそれだけはタブーとしています。

ああ、それとこれは大事な点だった。
アマゾン、アマゾンとアマゾンが矢面に立っていますが、アマゾンはお坊さんの派遣をしているわけではありません。
アマゾンはお坊さん派遣のチケットを販売しているだけ。お坊さんを登録・派遣しているのは「株式会社みんれび」です。アマゾンに文句を言うのは筋違いです。 おそらくはみんれびも各地方の地場の派遣会社と協力して全国の派遣網を完成させているわけで、現実には各地の派遣会社のネットワーク構築が主たる業務なのではと推測しています。

 

さて、長々と書きましたが、アマゾンお坊さん便自体は悪くない。ですが、ここまでの2点の悪いところだけをとりますと、

「35000円というかなり高めの料金で、どのような方かもわからないお坊さんがやってくるシステム。」

そう言えなくもないわけです。

ただ、こんなシステムが生まれてきた根底には今までの仏教界の明らかな怠慢があるのも間違いない。

檀家制度にあぐらをかいて、新しい信者獲得の努力もせず、非課税の恩恵を受けながら、お布施だけはしっかり頂いてきたからこそ、「拝みたいのに、拝み方を教えてくれない。」と、信者さまを逃してきた。だからアマゾンが必要とされるわけです。言い方は悪いですが営業努力の不足ですよね。立派な本堂の中に引っ込んで、会いもしないのにその本堂の改築費を要求されたら、そら守銭奴、生臭坊主、葬式仏教と言いたくもなります。当然です。

ただ、じゃあ、本堂もご本尊も要らない。余計なものだ。寄付をとる口実になるだけだ!という声にお応えして、どこのお寺もマンションの一室にお坊さんが1人住んでるだけとか、ビルの3階に間借りしてるとか、ネット上だけのヴァーチャルテンプルになって、拝むご本尊も何もない、そんなお寺だらけになるのが、日本の仏教徒の願いなのでしょうか。

何代も何代も、それこそひいおじいちゃんも、その前の世代もずっと営々とお墓を守り、ご先祖をお祀りしてきたお寺が、小さいころ境内で遊んだ、夏の夜には肝試しをした、毎年お墓参りをした、そういうお寺がある、ということに価値を見出すか、見出さないか、問題はそこに尽きると思っています。

そして、そういう価値が、もはや共有されなくなってきている、このことも間違いありません。

寺院建築というのは高コストです。何ら指定を受けていない建物でも、門だけで数百万、屋根だけで数千万、本堂全体なら数億円がかかります。災害などもあります。そこまでしてこのお寺を守りたいか、そういう「中身」が問われている気がします。

営業努力と言いましたが、社会に余裕がなくなって、みなさん共働きで忙しい。月参りをしたくても、だれも家にいない。だから毎月のお参りは要りません、そういうお声も多くなっています。これもまた「中身」の問題。毎月くるお坊さんがただただワケのわからないお経を唱えて帰るだけなら、来てほしくないのも分かります。しかしこの高齢化の時代、定期的に家にくる人間がいることの価値はなかなか見逃せない気がします。しかも、仏間というのはどんな家庭でも家の一番奥にある。普通の人なら覗けもしない奥の奥。家庭の内部に入り込んで、たまの法事では親族一同を知る機会がある。寝たきりのおばあさんにも引きこもっているお孫さんにも会える可能性がある。こんな特異なポジションを活かす「中身」が、かつてないほど問われている気がします。介護士やヘルパー、カウンセラーの資格を有するお坊さん、というのが将来的にはかなり必要とされる時代がくるかもしれません。

お坊さん便はお経を唱える人を派遣する効率的なシステム。

文句を言うくらいなら、お経以上の何を提供できるか、そこのところを考えないと、仏教に未来はない気がします。

今日は業界的にはタブーの領域に、言及して百害あって一利なしな分野に、あえて噛みついてしまいました。賢い選択ではないですね。

そう言えば、母はよく、「あんたはいつか口でえらい目にあう」って言ってました。
かあちゃん、俺、やっちゃったよ。