慈眼寺 副住職ブログ

W国宝ライド

先日お昼から頂いたお暇で、お寺でもお参りするか、と軽くでかけました。
行先は桜井市。ちょっと乗れば国宝のあるお寺にちょうどいい感じで連続で行けます。

まずは奈良マラソンのコースを通っていきます。169号はトラックが怖いので、大和神社までは裏道で行きます。そこからは腹をくくって纏向付近まで、怖いけど169号を南下。桜井市に入ると、なんだか落ち着きます。169号のあのへんまでのなんか殺気立った感じは何なんだろう。

そんなこんなですぐ「阿部」っていう交差点につきました。そう、目的地は安倍文殊院。あの!快慶作文殊菩薩像があります。
「安倍文殊院だから阿部にあるんだろう」と思って探しましたが、なんか標識があっちを指したりこっちを指したり、この先100Mのあとこの先150Mだったりで「どこなんだーーー!」と悩み、通りすがりの女の子に聞いて、ようやく発見。

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めっちゃ大きく「下馬」とありますので、馬を下りないといけないですね。

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下馬しました。

よく考えたら、中の文殊菩薩は獅子に乗ってるんですけど、「獅子に乗ってる人に馬から下りろ!と言われている」というシュールな展開です。
ちなみに、ここの文殊院、「日本三大文殊」に数えられているそうです。

ただ、どうも「日本三大文殊」を名乗っているお寺が7つほどあるようで、ちょっと微笑ましい展開ですね。高速増殖してますね。
とはいえ、ここの文殊院はどこの「三大」にもほぼ入っている有力文殊
だいたいみんなが認める2つは同じで、あと1つに自分を入れちゃえという状態なようです。
なら、「二大文殊」でええやんという気がしてきました。
あ、でも「3人寄れば」だから3にしたいのか。3人で文殊さま1人分だから文殊さま3人だと9人寄らなければならないですね。

話を文殊菩薩さまに戻します。
文殊菩薩って、本当にカッコいいと思います。なんといいますか。COOLです。
こういうことを言うと大変失礼なのですが、ビックリマンシールのヘッドの風格と言いますか、ヘラクライスト赤のような威風堂々感がカッコ良すぎます。

ヘラクライスト

お坊さんが仏像をそういう見方したら・・・みたいなご意見もおありでしょうが、文殊菩薩さまを拝見するとどうしても得度前の少年の血が滾ると言いますか、素直にカッコいいものはカッコいい!と言いたくなる衝動を抑えることができません。

まず、獅子に乗っている。剣ももっている。顔は切れ長の目でハンサム。座り方も男っぽい。(画像は各自検索願います)

もうヒーローそのものなんですね。カッコいいです。素直に一人の男の子としてカッコいい!と叫びたい。
なのに超頭がいい。空の思想を完璧におさえてて、お釈迦様の代理とかできちゃう。カシコカッコいい!

おまけに快慶作。仏師の中で日本で一番有名じゃないですか?歴史でも鞍作止利・定朝・運慶&快慶を覚えておけばもう十分なんじゃないかというほどの有名人です。胸が高まりまくりです。

「下馬」から歩いてすぐ気づきました。もっと本堂近くギリギリまでいける駐車場があります。慌てて戻って駐車場に大回りします。郵便局を過ぎてすぐの道を右です。すると、なんかでっかいのが見えてきました。

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この字、見たことある!

この人間だものっぽい字は・・・アレや!ばくざんせんせいや!調べたら当たってました。私、書の良しあしは全くわからないので、コメントは「ばくざんせんせいや!」とだけ。

さて拝観料を払って入ります。なんと拝観コースがA、B二つあります。それぞれ700円で、両方まとめたお得なコースは1200円。
Aは本堂内の文殊菩薩さまなどを拝観するコース。Bは金閣浮御堂というお堂をまわるコースのようです。
お金に余裕がないので、Aだけにしました。

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立派な本堂です。(が、中に入るともっと広い印象です。)

まずは畳の間に通され、赤い毛せんにすわるように言われました。

「まさか・・・このふすまがパッと開いてそこに文殊菩薩さまが!?ドキドキ演出!?」と思って襖に向かって座ると、

「こっちを向いていただけますか?」とのこと。

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お抹茶でした・・・。

恥ずかしッ!
お茶席でお茶を出してくれる人に背を向けてドキドキしてたッ!恥ずかしッ!なにこれ!壁ドンならぬ、襖ドキッ!
面壁座禅のようと言えば聞こえはいいが、何と間抜けな・・・。きっとあの女性にも「いまどきの人は・・・」と呆れられたに違いない・・・。
しかも自宅には炉を切った茶室的な部屋があるのに・・・。
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 お菓子はらくがんでした。表面にはドーマンセーマン。安倍晴明の桔梗紋ですか。陰陽師ブームですからねぇ。一条戻橋の晴明神社、えらいことになりましたから。

このお寺は安倍倉梯麻呂(くらはしまろ)の氏寺として建立されたとか。安部晴明の出生地としては大阪の阿倍野とこの奈良の阿部の説があるようで、そのあたりで安部晴明ゆかりの地ということなんでしょう。

そしていよいよ本堂へ。

そこで私を待っていたのは・・・

http://www.abemonjuin.or.jp/(※クリックすると安倍文殊院さまのHPにたどりつきます)

この威容。

おもわず「おお・・・」と声が漏れました。
こんなことはシスティーナ礼拝堂の「最後の審判」を見たとき以来。

あまりの神々しさ、と言っていいのか(仏さまなので)、その場を満たす緊張感というか、オーラというか、そういうものに圧倒されます。
とにかく大きい。全部含めて7m。しかし大きな仏さまにありがちな大味な感じがまったくありません。
これは快慶の作品全体に言えることなのですが、大きく作っても、大きさは感じるのに、おおざっぱな感じがしない。内奥へ吸い込まれるような緊張感を生むのは、細部の精密さか。造形の美しさか。獅子の今にも歩き出しそうな臨場感とその上に微動だにせず足を組んで座る理知的という言葉で言い表せない智慧に満ち溢れた相貌。

どの角度から見ても素晴らしい。

脇侍像も快慶作。どれも血管まで浮き上がるような精密さと今そこにいるような存在感が圧倒的です。
いやーここは行った方がいい。行かないとダメ。実にいい仏さまです。
予定がなければずっとここにいてしまいそうです。

いつまでも見ていたい衝動を抑え、そのまま数キロとある聖林寺(しょうりんじ)さんに。

ちょこっとだけ登ると、山の急斜面にお寺が。

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 こうしてみると結構高いところ。

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山の斜面に建っています。

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眺めがいいです。観光バスも来ていました。

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本堂です。どことなく、城崎の温泉寺を思い出しました。

さてこのお寺の本尊は大きな大きな地蔵菩薩さまで、安産子宝にご利益があると有名だそうです。
そしてこのお寺には760年台に造られたとされる国宝の十一面観音が有名です。この十一面観音は三輪の大神神社の神宮寺大御輪寺から神仏分離令のときにこちらに移されたそうです。木心乾漆ですので、以前私がこれまた自転車で拝観させて頂いた京田辺観音寺の十一面観音と同様の技法、だいたい同時期に造られたものになります。漆の使用量は脱活乾漆造よりは少ないものの、やはり手のかかる技法です。

「フェノロサ、激賞!」

ということで有名な仏像です。
さてさて、どんな仏さまなのか。収蔵庫への階段を上ると、あっけないほどいきなりご対面です。ちなみに拝観料は400円でした。

なるほど。美しい。
確かに海外のほうが評価が高そうな、柔らかくて優美な仏さま。指先に「花が開くよう」と表現されたりする美しい柔らかさがあります。
向源寺の十一面観音はかなりインド風ですが、こちらは和風といいますか、「東大寺にありそう」とか勝手に思うような感じです。
観音さまの常ならぬ特徴はあまり際立たせてはいない感じですが、胸の感じがなんとも不思議なバランスで、トルソー的なくびれ方をしています。収蔵庫ではなく、本堂内で見ていたら、また違った印象もあるかもしれません。

国宝を短時間で2体も拝観できて、お腹いっぱい。しかし自転車的にはちょっと物足りない距離。
あと5キロ登れば談山神社があるとのこと。中を見る時間はないですが、5キロなら登ってみようかとそのまま上へ。
あ、ちなみに談山神社は「たんざん」と読みます。「だんさん」って読む人多いです。私もこの日に知りました。わざと間違えやすいようにしてるとしか思えない。

しかしこのへんはほんとうにのどか。
文殊院付近から既に木材加工の会社がすごく多くて、どこにいっても木材の良い香りがするのですが、こちらにくると、その木材のもとになる森林がどこまでも深い。田畑の横の水路の水は豊かで、美しい。木津の海住山寺の近くにもこんな水路がありますね。

気持ちよく登っていきますと、どんどん気温が下がっていきます。
この日、拙僧は普通のビブショーツ。足丸出し。登ってるうちはいいけど、これ、下りは・・・。なんて焦りつつ、登ります。アレ?5キロってこんなにあったっけ?ちょ、ちょっとしんどいな。
あれーまだかなー。なんだろうなこれ。大正池登ってるくらいの感覚あるなぁ。

そんなことを思っていると、ようやくつきました。

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鳥居、結構大きいんですよ。

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せっかく来たので登ってもよかったのですが、変える時間が限界。仏像ゆっくり見過ぎた。
中大兄と中臣鎌足が大化の改新の相談を行ったこの場所、もっと見たかったのですが、急いでそのまま下りました。
春は遅めの桜、なにより秋の紅葉で有名だそうです。また誰か来ましょう。

思った通り帰りは極寒。冷える冷える。なんなんでしょう。この

多武峰、独特の清澄さといいますか、冷え冷えとした空気があります。紅葉の名所もうなずけます。聖林寺まで来ると温かくなりましたが、すっかり冷え切っちゃいました。次回は腹巻着用、と。

そんなこんなで往復70キロ。午後からでも十分まわれますが、できれば朝から動きたい。ここからさらに吉野の金峯山寺まで行くとか、逆に長谷寺、室生寺周りで帰るとかすると、100キロ以上の行程になりそうです。

自転車のスピードは車と違っていろいろ立ち寄れるのがいい、なんていいますが、ロードでビンディングだと結局ストイックに走ってしまってコンビにしか寄らずに帰ってしまうもの。それはそれでいいんですが、通り過ぎる町に、とんでもない歴史のロマンとか、教科書に載っている美しい仏像なんかがあったりします。それを知らずに通り過ぎるのも、もったいないな、と。しかもバイクや車と違って、その道筋を身体で感じられるわけですから。

たまにはゆったり時間をとって、SPDで草餅なんか食べながら、ゆっくりのんびり回ってみるのも、いいんじゃないですかね。
っていうか僕はそっちが好みですね。