慈眼寺 副住職ブログ

一番の才能

お盆の棚経の真っ只中、部活の生徒から連絡がありました。
今までほとんど勝てていなかった男の子が、4回戦に進出した、とのこと。

その子は入ったとき、体つきはしっかりしていたものの、フォームもタイミングもバラバラでせっかくのパワーもまったく使えず、ジャンプして落ちるときに打つようなひどい状態でした。そこで「自分の中学の経験は全て捨てて、いったん真っさらにして頑張ろう」と言いました。

彼は特進クラスで勉強も忙しく、練習にもあまり来れません。たまに来ては初心者に混ざって素振りばかりさせられ、ゲーム練習はほとんどさせませんでした。そんな中でも全く腐らずに、少ない練習時間の中常に「コレでいいですか?」と確認や質問を怠りませんでした。

そうして一年が過ぎ、2年生になり、ようやく普通の打ち方ができるようになったので、ゲーム練を一気に増やしました。そんなにすぐに結果が出るとは思いませんでしたが、2年目のこの夏、シードの選手を破って4回戦進出。その日は負けなしのまま試合初日を終えたのです。

私は8月は全く身動きがとれないので試合の観戦もできない、情けない状態なのですが、わざわざメッセージで報告してくれました。正直、こんなとこまで勝つのは想定外でした。当然組み合わせに恵まれた部分はかなりあったかと思いますが、それでもシードの選手を破ったのは紛れもない事実です。

成功する人というのはみんなそうなのですが、頑張ったのは本人なのに、ものすごく感謝してくれます。誰もが現状の自分を守りたくて、小さなプライドにしがみついていつまでも成長できないなか、いったん自分を否定するという難しいことを成し遂げ、勉強と両立しながら結果を出す。素晴らしいことだと思います。ここでもいつも書いていますが、本当にスポーツの強い弱いなんてどうでもいいんです。過去の栄光にすがっていつまでも成長せず、肝心の仕事がおろそかな人はざらにいます。

肉体的な才能は等しく与えられていません。不平等な世界です。しかし彼には人の言うことを素直に聞いて、自分を過信せず、しかし諦めずに自分を高める努力を続けるという、人間に一番大事な才能があります。正直、ここから爆発的に強くなるとか、次は優勝するとかは思いません。次回はもっとあっさり負ける可能性も十分にあります。ですが、これから彼が大人になってもずっとバドミントンを楽しめる「ふつうの」フォームは手に入りましたし、何より先生がいくら教えてもなかなか身につかない素直さが彼にはあります。

素直さが一番の才能です。

そのことに改めて気づかせてくれた出来事でした。これだからコーチ(笑)は楽しいですね。