慈眼寺 副住職ブログ

ママチャリの「コストパフォーマンス」

今日、ちょっと事情があり、他人のママチャリを借りて片道5キロほどの道のりを行かなければならない用事がありました。奥さんのママチャリはときどき乗っていますが、いわゆるフツーの変速もないママチャリは久しぶり。よく駅前にとまっている普通のママチャリでした。整備もされていないのが常なのでそんなに高性能を期待していたはずもなく。

それでも乗ってみてビックリ。

全然踏めないのです。別にロード並みのひと漕ぎなんて期待していません。中学時代に立ち漕ぎしていたあの感覚をイメージして乗っただけなんです。ところがびっくりするほど踏めない。

漕ぎ出しはやたらと重い。しかし少し踏むともう回りきってしまって空転する。坂道も下りるだけ。一切踏めません。悲惨なのは登り。絶望的に重い上に重心がめちゃくちゃ後ろで低い。どんな自転車でもダンシング(立ち漕ぎ)したら誤魔化せるとおもってましたが、ダンシングがそもそもできない。

立てないのです。

立ち漕ぎしようと腰を上げると、低重心過ぎてすぐに戻される。合気道の達人に対峙したような不思議な感覚ッ!立とうとすると座らされるッ!渋川剛気かお前は!

そんな独り言を言いながら坂道を登るとたった5%ほどの坂でもきつい、8%くらいになるともう20%超えの感覚ッ!普通の坂が海住山寺の坂のようなしんどさになってしまいます。わからない人は「海住山寺 坂」で画像検索してみましょう。でも、写真からはあのしんどさの3分の1も伝わりませんけど。実際に登ったときの絶望感はもう(笑)

とにかくたった5キロ漕いだだけなのに、汗だく。考えられない。疲労感はロードでの80キロほどに感じました。

なにより、全く楽しくない。

よく人に、「自転車なんかでよく100キロも行けるよね~信じられないよ~」などと言われますが、全く意味が分かりませんでした。だってまったくしんどくないから。楽しいだけだから。ですが今日ようやく意味が分かりました。ああいう自転車だと確かに過酷な罰ゲームというか、虐待ですね。

間違ってほしくないんですが、ママチャリというジャンル自体を馬鹿にしたいわけではないのです。コレは本当に。荷物も運べて安全快適。街乗りに必要なものは全てガラケー的にかなえて子供も載せられる!日本独自の発展を遂げた世界遺産です。炭鉱の廃墟よりよっぽどすごい。自分もママチャリで育ててもらったわけですから。ですが、よく「庶民の感覚ではママチャリには1万しか出せない」などという発言で出てくる「1万円」もしくはそれ以下のママチャリ、というものの内実をよく考えてほしいんです。

確かに1万円であります。ホームセンターに売ってます。でもアレって、僕らが乗ってた「ママチャリ」とも、もう違うものなんじゃないでしょうか?よくよく見てみると、女の子の指のような細いハブ(ホイールの軸ですね)、速度域の絶望的に狭いギア比、修理されているようすを見ていると、見えないところでかなりコストカットしているのがわかります。パンクすると補修しにくいチューブを使用しており、パンクの際には結局チューブ全体を交換しなければなりません。タイヤの耐久性も低い。ぜんぶ替えたら結局自転車本体ぶんの値段くらい軽くしちゃいます。

そしてなにより整備が行き届いていない。街を歩くと振り向きもしないでも何メートルも手前から手入れしていない自転車が近づいてくるのが分かります。ギシギシ、ギシギシ、キーコキーコ、不快な音を立てて、じきに錆びたチェーンと潰れたカゴの自転車を漕いでスマホを操作する若い男性、イヤホンをつけた女性、買い物帰りのおばさんが現れます。傘差し、逆走、歩道でベル。うんざりするようなお馴染みの光景。

「コストパフォーマンス」、略して「コスパ」。よく聞きます。1万で買えるのに、3万円のママチャリ。おかしい。同じママチャリなのに高い!と思うでしょう。でも、違うのです。同じものではないのです。安いものには安い理由があります。安い自転車でも大事に大事に使って整備して長く乗れてこそ、「コストパフォーマンス」という言葉の意味が出てくるはずです。しかしホームセンターの1万円の自転車は大事に使うようにできていない。電化製品と同じ。あの言葉が出てくるのです。

 

「修理するなら新しいの買ったほうがはやいですよ」

 

私は電気屋さんのこの言葉が大嫌いです。電気屋さんと名乗って欲しくない。修理もできない電気屋さんって何なんでしょうか。でもそれは私たちが作った状況なんです。安いものを安いものを。日本橋までいって「電化製品は値切るモンや!」とばかり何軒もまわって一番安い店で買う。最近ではそれすらせずに、電気屋さんでさんざん見た製品をネットで買う。安ければいい。コスパ重視!この状況が、この世から「電気屋さん」を消しました。いまあるのは電化製品の大きな倉庫だけです。

自転車も同じです。数年で使い潰されてゴミになる。誰かに盗まれても探さない。ビニル傘とたいして変わりません。だーれも名前も書きません。整備なんてもちろんしない。でも、命にかかわるんですけどね。よく考えて欲しいんです。

 

その自転車、ほんとうに、ほんとうに「お得」ですか?

 

1万円出して、ゴミを買ってるだけじゃないですか?じゃあ、3万円出して、「自転車」を買うのが、本当の「コスパ」ではないですか?

だって答えはもう出てるじゃないですか。昔の人は大事に乗ってましたよ。ほぼ一生モノの丈夫な重い自転車。大事に大事に乗ってましたよ。あなた自身が大事に使ってないじゃないですか。自分にとって取るに足りない、無くしても探さないものに1万円出してるんです。それはコスパがいいとか悪いとか、そんな次元の話ではないですよね。

本当に、自転車って命にかかわりますから、目先の安さに飛びつかないようにしてほしいんです。最後に、大事なことだから言っておきます。

私、ブリヂストンから一銭ももらってません(笑)