慈眼寺 副住職ブログ

オタク菩薩道

 

アッガイ

NHKで紹介された戦艦武蔵の画像に対して、「アレは大和です。」という指摘があり、NHKが謝罪するということがありました。姉妹艦なので似ているのは当たり前なんですが、よくそんなもんわかったなと驚きです。自分は軍艦などには全く詳しくないのですが、どの道にもものすごいオタクというものは居るものです。ちなみにオタクという言葉、私は全然悪い意味では使っていません。何かをものすごく好きで、それに対して精通している人を「気落ち悪い」などという理由が分かりません。たとえそれがアイドルであったり、アニメであったりフィギュアであったりしてもそう思います。

私が大好きなオタクさんといえば、東京に住んでいるHさん(仮名)というオタクさんです。
彼とはインターネットで知り合い、一度友達の結婚式で東京に呼ばれた際に、秋葉原のドトールではじめて会いました。
「ドトールで待ってる。目印はテーブルの上に置いたアッガイ」と言われ、集合しました。

そのまま二人で食事をしたのですが、そのとき、お互いどういう人間かはだいたい知っていたのですが、それでも初対面で緊張はしていました。そのときに、突然、彼が「今まで見た映画で、一番好きなシーンは何?」と聞いてきたので、恥ずかしながら自分の好きなシーンを言いました。あまりに微妙なシーンなので、伝わるかなぁと心配して私が言ったシーンは、

「帝都大戦で、超能力青年加藤雅也が魔人加藤に対し、すごい超能力者南果歩を守るために限界を超えたパワーで挑んであっけなくやられちゃったところ。明らかに自分より強い女の子を守るために無理しまくって戦うところがとんでもなく燃えた」

というものでした。彼は大喜びして「僕もそれなんだよ!!!」と言いました。それ以来、会ったのは3回くらいしかないのですが、何かアニメ特撮業界で事が起こるたびに二人で連絡を取り合っています。ちなみに、加藤雅也は奈良出身です。

私がこの人、に限らず、ありとらゆるジャンルの「オタク」の人を尊敬する場合とそうでない場合の分かれ目は、「こだわりはあるが、囚われない人であること」です。

人は、母親の味をいつまでも美味だと思うように、昔、もっとも多感な時期に「いい!」と思ったものをいつまでもよいと思ってしまう習性があります。思い出補正です。よく、ファーストガンダム最高!とかマクロス最高!とかいつまでも昔の作品をよかったよかったと言い、新規シリーズのファンをバカにする輩がいます。でも、今の若い人にとっては今見ている作品がその「最高!」の作品なのであって、お互いの「最高」を比較したり、古いほうがよいなどということは無意味だと思います。「最近の若いもんは・・・」のおじいさんと同じです。もう一生進歩がないです。だいたい本当にもう一度ガンダムやマクロスのテレビシリーズを見てみたら「うわーこんな汚い絵だったっけ?」「アレ?グフに切られた脚の中、空洞じゃん!」とか見られたもんじゃないところがいっぱいあります。あくまで初恋の人を見るような記憶補正が美しい幻を見せているだけです。頭の中で劇場版の綺麗な絵を使っているだけです。初恋の女性の写真、今一度、思い入れを取り外し、見てみましょう。芋臭い田舎の中学生がそこいるだけではないですか?悲しいけど、これ人生なのよね。

その点、Hさんは違います。ヤマト大好き、イデオン大好きの古参オタクにして「戦え!イクサー1!」のスタッフロールに名前が出ている濃ゆすぎる人物であり、「宮崎駿が公演前に度胸づけで酒飲んでのたうちまわる姿を見て軽蔑した」という経験も持つ大オタクでありながら、いまだに新作アニメにドハマりする現在進行形の最前線のオタクです。決して追憶に溺れない。

一番すごいと思う能力はダメな作品でもそのダメさを愛する。少しでもいいところを探してあげる。でも、旧作でも新作でも、「せいぜいこんなもん与えとけばオタクは喜ぶんだろ?」という制作側の怠慢が見えたら決して許さない。「一生懸命低予算で頑張りましたけど、今は、これが、精一杯」なら許す。この慈悲の心、まさに菩薩道!

自転車の世界もそうだと思うんです。そりゃあ、金だせば、いいもん買えます。いいもんは、そりゃあいいんでしょう。知らないけど(笑)。ですが、勝手に線引きをして、「105以下は、レーススペックじゃないから・・・」とかそもそもレーススペックじゃない自分の脚は棚に上げて言っちゃうのは、もったいない気がします。乗ったこともないティアグラやクラリスをバカにしても、別に速くなりません。安いものには安いなりに、「え?こんな値段でこんだけいけるの?すごいやん!」という楽しみ方もあるはずです。そのへんのメーカーの苦心まで読み取る能力があってこその、自転車愛だ、という意見もありだと思います。もちろんフカヒレやフォアグラは美味しいのでしょう。でも、永谷園のお茶漬けの美味しさと、フランス料理の美味しさ、比べられますか?インスタントラーメンをバカにする人いますけど、そりゃ、普通のお店よりインスタントの方が美味しかったら大変ですよ。でもインスタントにはインスタントにしかない美味しさって、あるじゃないですか。そして、「今はカップヌードルカレーをどうしても食べたい気分」という瞬間って、あると思うんですよ。それがない、というのは、ある意味で人生の損失じゃないのかなぁ、と。私はそう思うわけです。

これで価値観逆転して、インスタントこそラーメン!となったら明らかにコレ、おかしいですよ。ただのひねくれものですよ。でも、インスタントにはインスタントの良さ、別物、という考え方、これは懐の広さですよ。

そういうことがきっちりわかってて、対象のよいところも悪いところも愛する。それこそが真のオタク道、だと思うわけです。

これって、仏教とも関係・・・しなくてもいいや。別に。お粗末。